-事業構想論- 平和と事業構想 NPO法人ブリッジ・フォー・ピース
2026年6月4日(木)、「事業構想論*1」(担当教員:松本祐一教授)の授業に、NPO法人ブリッジ・フォー・ピース 代表理事 神 直子(じん なおこ)氏を迎え、「平和と事業構想」をテーマとした講義が行われました。
平和活動の原点――フィリピンでの出会い
神氏が運営するNPO法人ブリッジ・フォー・ピースと株式会社ディープ・ジャパンは、いずれも「平和」を企業理念に掲げ活動を続けています。その活動の原点は、大学時代に参加したフィリピンツアーでの経験でした。
スペイン、アメリカ、日本の3カ国に占領された歴史を持つフィリピン。特に3年半の日本の占領期は、「辛い記憶しか残らなかった」と語られるほど悲惨なものでした。
「過去の戦争の傷跡を知る」「第三世界の現状を知る」を目的としたツアー中、日本軍に家族を奪われた女性から「日本人なんか見たくなかった」と告げられた神氏。この言葉は心に深く刻まれました。さらに教員からの「知ったことに対して何も行動を起こさないのは静寂搾取だ」という指摘が、のちの行動を起こすきっかけだったと振り返りました。
卒業後、一般企業に就職した神氏は、偶然訪れた新潟県極楽寺のご住職から「戦時中の行為を悔やみながら亡くなった元日本兵もいる」という話を聞きます。その言葉がフィリピンで出会った女性の思いと重なり、「日本国内にも、あの戦争で苦しんでいる人がいるのではないか」と考えるようになりました。この気づきが日本の戦争体験者の証言を集め、フィリピンへビデオメッセージとして届ける活動へとつながったといいます。
講義では日本兵とフィリピン人双方の証言をまとめた13分の映像を上映。戦争の悲惨さと和解への思いが描かれる一方で「この映像が全てではない」ことも強調されました。戦争当事者が少なくなる中で、証言を映像に残すことの意味と、今もなお許せないと語る人々がいる現実を認めつつ、対話と交流を続けていると説明しました。
観光業は「平和産業」—交流がつなぐ平和な世界
2004年に設立したNPO法人ブリッジ・フォー・ピースは、戦争体験を含む過去・現在・未来と向き合い、アジアの多様な文化や価値観の間に架け橋を築き、国境や世代を超えたつながりを広げることで、平和な社会の実現を目指して活動しています。
これまでに300名以上の戦争体験者の証言を映像として収集、編集してフィリピンに届けてきました。これらの映像はSNSによる発信や自主イベント、学校での出張授業などにも活用され、授業料収入を得ることで、寄付や会費に頼りすぎない事業モデルとして黒字運営を実現しています。
2017年に設立した株式会社ディープジャパンは、徳川家康公生誕の地、愛知県岡崎市を拠点に、265年間続いた戦争のない時代の礎を築いた家康の功績に学びつつ、訪日外国人と日本人をつなぐ架け橋となることで、平和な未来づくりを目指すことを理念に掲げています。
神氏は観光業を「平和産業」と捉え、国際交流そのものが平和につながるという信念から、カフェ事業、国際交流事業、国際教育事業を展開。フェアトレードコーヒーの提供、ホームステイの斡旋、日本文化体験や、外国語レッスンを行うカフェ運営を中心に、日常的に異文化が交わる場の提供にも力を入れています。
いま大学生ができること――寄り添う想像力から始まる事業構想
講義の最後には、学生から「活動を続ける中で大変だったこと」、「相手を傷つけないように意識していること」、「言葉だけでは解決できない関係の中で大切にしていること」など、多くの質問が寄せられました。
その中で神氏が強調したのは「相手の立場に立つ姿勢」の重要性です。「自分よりはるかに過酷な経験をしてきた戦争体験者たちに話を聞いているのだから、大変さを感じることは少ない。孫世代として一歩引いた立場から、相手に寄り添う想像力をもって取り組んでいる。」と語りました。
さらに、国際情勢が不安定な今、大学生ができる行動として「世界中に友達をつくること」を挙げました。「将来、その友人が政府の役人になるかもしれないし、どこかで再びつながるかもしれない。草の根の交流こそが平和の基盤になる。」と述べ、学生時代の出会いが未来の平和を支える可能性を示しました。
今回の講義は、戦争や平和が「遠い世界の話」ではなく、私たちの日常と地続きのテーマとして感じられる機会となりました。相手に寄り添う想像力を育むこと、小さな交流を積み重ねること。さまざまなきっかけが点となり、やがて線になっていく――神氏の講義は、学生が平和や事業構想について考える“最初の点”となるかもしれません。
特定非営利活動法人ブリッジ・フォー・ピース 公式サイトはこちら
株式会社ディープ・ジャパン 方式サイトはこちら
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*1:多摩大学では事業構想を「世の中の不条理を解消しようとする問題解決行動」と定義し、アイディアが事業構想へ発展するまでのプロセスを重視しています。本授業では、事業構想を理解するための3つのアプローチとして「言葉の意味から考える」「既存理論から考える」「事例から考える」を提示し、春学期は“事例”に焦点を当て、実践者の視点から事業構想の本質を学びます。
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